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仙台高等裁判所秋田支部 昭和54年(く)3号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、申立代理人弁護士南出一雄、同松坂清、同青木正芳連名で提出の「即時抗告の申立」及び「即時抗告理由補充書」(昭和五四年八月九日付)と題する各書面に記載のとおりであるから、これらをここに引用する。

その理由の要旨は、(一)原決定は再審請求手続に要した費用を本件補償の対象から除外しているが、これは再審を伴う刑事裁判手続形成過程の発展と裁判の存在の関係を無視し、刑訴法一八八条の二、一八八条の六の解釈適用を誤つている、(二)原決定は、本件費用補償請求事件につき、第一審、第二審、上告審の弁護人・被告人の旅費、日当、宿泊料並びに弁護人であつた者に対する報酬の額を算出するに際し、その当時の基準額によつているが、これらは、この請求権が具体的に生じた時点で補償するという制度の趣旨からみて、現在の基準額により定めるのが相当である、というのである。

そこで判断するに、(一)刑訴法一八八条の六は、同法一八八条の二第一項の規定により補償される費用の範囲は、被告人若しくは被告人であつた者又はそれらの者の弁護人であつた者が公判準備及び公判期日に出頭するに要した旅費、日当及び宿泊料並びに弁護人であつた者に対する報酬に限るとして費用補償の範囲を限定している。ところで再審請求手続は非常救済手続であり、すでに有罪の判決が確定した者の利益のために再び審理をやり直すかどうか、すなわち、再審の請求の適法性やその理由の有無を判断する手続であつて、その過程で再審請求人やその相手方らの意見を聴き、事実の取調べをすることはあつても、それは、裁判所が被告事件について審理し、被告人の有罪無罪を確定するための手続過程(公判手続)を構成する公判期日及びその公判期日における審理の円滑・迅速をはかるための公判準備に該当しないことは明らかであつて、したがつて再審請求手続において生じた費用は本件費用補償の対象とならない。この点についての原決定の判断に誤りはない。

(最高裁第二小法廷昭和五三年七月一八日決定刑集三二巻五号一〇五五頁参照)

(二)次に刑訴法一八八条の六は前記のとおり費用補償の範囲を限定するとともに、その額に関しては、刑事訴訟費用に関する法律の規定中、被告人又は被告人であつた者については証人、弁護人であつた者については弁護人に関する規定を準用するとしている。そして、被告人並びに弁護人であつた者が出頭した公判期日及び公判準備期日は、記録上具体的に特定された過去の日であり、これに支払われる旅費、日当、宿泊料は各出頭の時点において、又弁護人であつた者に支払われる報酬は、通常国選弁護人に対する報酬の支払われる当該審級の終局時点において、刑事訴訟費用等に関する法律(同法施行前は、旧刑事訴訟費用法及び旧訴訟費用等臨時措置法)の規定に基づいて作成されたそれぞれの時期における具体的基準に準じて合理的に算定されるべきものと解すべきであり、原決定の補償額算定基準時についての判断に誤りはない。

結局原決定には所論のような瑕疵はなく、本件抗告は理由がない。そこで、刑訴法四二六条一項後段により主文のとおり決定する。

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